2024年、GTO Wizardは新しいICM計算法の性能を紹介しながら、具体的な方法は明かしていませんでした。その仕組みを知る手掛かりになる論文が、2026年10月5日にarXivへ投稿されました。著者はGTO Wizard所属のWataru Inariba氏。無料のWASM Postflopを開発してきた人物です。
10月12日の公式X投稿でも研究が紹介されました。この記事では、開発者の歩みと、今回公開された内容をたどります。
公式X/論文
無料ソルバーの開発から、商用の仕事へ
Inariba氏は「b-inary」の名でソルバーを公開してきました。2023年10月1日、本人はGitHubで商用ソルバー開発への移行と、従来のオープンソースプロジェクトの開発停止を告知しています。個人の意欲に大きく依存した開発を続ける難しさにも触れていました。既存のコードは公開を維持すると説明しています。
本人の告知
翌年のGTO Wizard公式記事は、新しいICM計算手法の開発者としてInariba氏を紹介しました。同社の別記事も、WASMソルバーの作者とのつながりを明記しています。
開発紹介/作者の紹介

大人数になると、何が難しかったのか
トーナメントのチップ量は、そのまま現金の額にはなりません。ICMは各プレイヤーのチップ量と賞金配分から、モデル上の順位確率や賞金価値を求める考え方です。
人数が増えると、あり得る順位の並び方は急増します。そこで大人数の計算には、サンプリングなどの近似法も使われてきました。「以前は大人数を一切計算できなかった」という話ではありません。
HRCの2020年の説明
論文の第2〜4節を基にした概念図。具体的な確率や賞金額を示すものではありません。
公開されたのは、計算法を説明する論文
今回のDE-ICMは、複数のプレイヤーの計算に共通する部分をまとめて扱い、それぞれの順位確率を取り出す仕組みです。論文は方法に加え、計算誤差や安定性の検討を説明しています。
論文の実験では、1,000人について、全プレイヤーが各順位になる確率をまとめた表を1スレッドで約0.2秒、4,000人では約7.58秒で計算したと報告しています。測定機はAMD Ryzen 9 9950X3D。これは研究用実装の測定値で、製品全体の応答速度や、ポーカーの戦略全体を解く時間ではありません。
論文・実験結果

2024年の実用化と、2026年の研究公開
論文によると、前身の手法は2024年から製品内で利用されてきました。今回の論文の実験やパラメータは、その製品とは独立したものです。既に動いていた技術について、第三者が方法と検証の内容を読めるようになった点が今回のニュースです。
ただし、論文用実装も製品コードも公開されていません。GTO Wizardが無料化された、あるいはソースコードが公開されたという発表ではありません。論文はarXivのプレプリントとして公開されています。
論文の再現性説明
OSS開発停止を告知
性能を説明
手法は非公開
論文v1投稿
製品での利用:前身の手法を2024年から使用(論文の記述)。開始月日は示されていません。
本人のGitHub告知・GTO Wizard公式記事・論文に基づく年表。論文用実装と製品コードは非公開です。
計算が精密でも、大会の未来を予言するわけではない
今回扱うのは、ICMというモデルをどれだけ精密に計算できるかです。現実の大会では技量や状況も結果に関わります。モデルの計算精度と、実際の順位を当てる力は分けて読む必要があります。
今回の論文化によって、製品の性能紹介だけでなく、その計算法と検証の内容を読めるようになりました。開発者が積み重ねた仕事を、方法からたどれる発表です。


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